原始反射ってなんだろう?
原始反射とは生まれ持った力で外に応じる能力
生後間もない赤ちゃんは「自分の意思で行動する」ことができません。これは脳の「考えて行動する」といった役割を担う大脳皮質が十分に発達していないからです。
しかし、赤ちゃんでも食事(母乳を吸うこと)や排泄、姿勢を保つためには体を動かすことが必要になります。自分で行動はできないのに、どのように体を動かすかというと、外部の刺激に対し反射的に動作を起こす赤ちゃん特有のシステムを持って動いています。これが「原始反射」です。
例えば、
出生直後の授乳では自分で考えて乳房を探し、吸い付くことはできません。「原始反射」の一つである“探索反射(たんさくはんしゃ)”によって口周りに触れた物の方へ顔を向け、“吸啜反射(きゅうてつはんしゃ)”によって口に触れた物に吸い付くといった動作を自動的に行っています。
「原始反射」は(意識・呼吸などを調整する)脳幹と言った部位でコントロールされ、出産時や将来的の動き方の基盤作りに重要な体の反応であり、脳発達が順調かどうかを見る指標となります。“乳幼児健康審査(幼児検診)”で必ずチェックされる項目の一つです。
代表的な原始反射
把握反射・足底反射(はあくはんしゃ・そくていはんしゃ)
手や足にものが触れると反射的に握りしめる反射(出現期間:胎児後期〜生後半年程度,足底反射は1歳頃まで)
探索反射・口唇反射(たんさくはんしゃ・こうしんはんしゃ)
唇の周りに触れると反射的に顔を向けて口を開く反射(出現期間:胎児後期〜生後4ヶ月頃まで)
吸啜反射(きゅうてつはんしゃ)
口に触れたものに無意識に吸いつく反射(出現期間:胎児後期〜生後6ヶ月頃まで)
モロー反射
音や光、急な姿勢の崩れなど、外からの刺激で赤ちゃんがビクッと反応し手を広げたりバンザイをする反射(出現期間:胎児後期〜出生後6ヶ月頃まで)
バビンスキー反射
足を踵から母趾球の方へ擦ると、足趾が開く反射(出現期間:胎児後期〜生後18ヶ月頃まで)
脳の発達が順調に進んでいれば原始反射は消失する!
赤ちゃんが生きていく上には欠かせない『原始反射』ですが、脳の発達が順調に進んでいくと消失していきます。
『原始反射』の動きを繰り返すことは、中枢神経系(脳幹など)の発達を促す作用があります。中枢神経系神経系の発達が進むと、冒頭で述べた「自分で考えて行動する」といった役割を持つ大脳皮質が働く準備ができるので、自分の意思で動くことができるようになります。
大脳皮質の働く準備ができてくると『原始反射』で反射的に動いていた動作は脳に記憶され、自分で考えて行動できるようになり、原始反射は自然に消失していくのです。
「原始反射」が消失しないとどうなるの?
脳の発達状態により原始反射が一定の期間を過ぎても消失しない場合があります。これを“原始反射の残存”といい、脳の発達が順調に進んでいないサインであり、将来の成長の妨げにもつながります。
例えば
吸啜反射が消失せず残っていると、自分の意思で口を動かすことが難しくなり、口に入った食べ物を押し出したり咀嚼嚥下(そしゃくえんげ)が上手くできなくなったりします。※咀嚼嚥下とは口に入れて飲み込むまでの過程
また、「原始反射」が残存したまま成長していくことで
◯同じ姿勢を保ち続ける事ができない。
◯真っ直ぐ歩けない。
◯上半身と下半身の協調性に欠ける。
などの症状が現れることがあります。
これは脳の発達が進まず「原始反射」が残存している状態なので発達障害や脳機能の障害が疑われ、日常生活での生き辛さに繋がってくるのです。
「原始反射」が残存しないようにするにはどうしたらいいのか?
本来成長とともに消失する「原始反射」が残存するのは大脳皮質の発達が遅れているためです。「原始反射」が残存しないようにするには、大脳皮質の成長を促すことが鍵となります。
大脳皮質の発達には、「原始反射」が担っていた動作を元に体を使う運動が効果的です。特に“手”や“口”や“舌”を使って、様々な外部からの刺激を脳に何度も届けることで脳の発達は促されます。
月齢に合わせた運動を積極的に取り入れて大脳皮質を刺激し発達させましょう!
脳を育てよう!親子で赤ちゃん体操(0〜2ヶ月)
脳を育てよう!親子で赤ちゃん体操(2〜4ヶ月)
気になったら小児科や各施設に相談しよう
原始反射の消失や発達段階の現れ方には個人差があるので、周囲の子供と比較して発達の遅れを感じた場合は原始反射の残存を疑う必要性が出てきます。
不安に感じることがあれば、専門家に相談できる場所を探してみましょう。
◯乳幼児健康審査
乳幼児健康審査は幼児検診とも言われ、母子保健法の定めにより保健所や小児科で実施しています。3ヶ月・6ヶ月・一歳半といった乳幼児の発達の節目に受けることができます。
◯地域子育て支援センター
厚生労働省が設置している“乳幼児の子どもと子どもを持つ親が交流を深める場”です。
行政や自治体が運営している施設で、子育ての不安や悩みを相談できる窓口を設置しています。また子供が遊ぶスペースも設置されているので気軽に親同士の交流を深める場としても活用されています
◯児童相談所
0〜17歳の児童を対象とした育児相談、健康発達の相談を受け付けてくれる窓口です。必要に応じて医師や保健師、理学療法士などにアドバイスを貰うことができます
◯小児科
小児科は病気や怪我以外の相談にものってくれます。保健所などで乳幼児健康審査をした場合、個別に質問出来なかった内容など改めて相談してみるのもいいかもしれません。
まとめ
「原始反射」はなかなか聞き慣れない言葉で、子供がいても順調に発達していれば意識することもないかもしれません。しかし『原始反射』は脳の発達状況を知るための目安になります。お父さんやお母さんが原始反射の有無で脳の発達状況を確かめることは難しいかもしれませんが、原始反射を通して子供の発達に少しでも不安を持つことがあれば専門家に相談してみましょう。
[参考文献]
- 森岡周.発達を学ぶ〜人間発達学レクチャー.協同医書出版社,2015,154p
- 清野佳紀,小林邦彦,原田研介,桃井眞里子.NEW小児科学(改定第2版).株式会社南江堂,2005,668p
[注意] 本記事の内容は著者の専門家としての見解に基づくものです。ただし、特定の環境や個々の事例によって効果・リスクは異なる場合があるため、判断および行動による結果について責任を負うものではありません。安全の確保等は皆様の責任で行い、ご不安な場合はかかりつけ医に相談するなどしてください。